この茶盌の紅色は土の色です。登り窯の中での松割木による焼成で、一盌、一盌、色が窯変していく。大抵の場合、私自身がよい茶盌として焼き上がったものの中から取り上げるのは、鹿の斑点のような「鹿背」の文様がよく出たものです。或いは、紅から茶色、灰色と色の変化に富み、美しい景色を見せてくれるものです。
しかしながら、時折、微妙な淡い色の変化でありながら、心を捉えて離さない一盌に出会います。
この茶盌は、その典型的なもの。
紅の淡いグラデーション。そして、遠慮がちな「鹿背」の模様も、この一盌を心から離さない魅力となっています。こういった茶盌が焼き上がるのは、大抵、窯の中の一番下段に近いところ。火から遠いところ。
ハッと息を吞むような華やかな美しさとは違う、優しく静かな器です。
窯出しをしている時にも、すぐには気付かない時さえあります。
でも、手に取ってみれば愛情を注がざるを得ない器であります。
サイズ Φ137×h80 mm
素材 紅鹿背(宇治の陶土)
釉薬 透明釉
焼成 玄窯(登り窯)
箱 木箱 ※受注後に制作、約二週間
Price 209,000 JPY