記憶の中で美味しさを思い出す、Kaikado Caféの珈琲哲学

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訪ねた場所
Kaikado Café(京都市下京区)

数字では語れない珈琲の魅力

Q. 開化堂といえば京都で創業140年の老舗として知られていますが、長年茶筒を作られている開化堂さんが、カフェを始められるきっかけとは何だったのでしょうか?

Kaikado Café店長 川口清高さん:
実は開化堂の先代社長(現五代目会長)が無類の珈琲好きで、引退したら珈琲店をやりたいという長年の夢があったそうです。
もう一つは、茶筒をはじめ工芸の入り口となるカフェを開きたいという思いです。これまで中川ワニ珈琲さんの珈琲道具を、開化堂を始め京都の職人さんたちと作っていたのですが、カフェならば、若い方や工芸を日頃使う機会がなかった方にも気軽に触れていただく場所を作れるのではないかと思ったのです。

Q. Kaikado Caféの珈琲は中川ワニさんの伝授によるものなんですよね。具体的にどのような指導があったのですか?

ワニさんから出てくる言葉に、数字的なものが一切ないのが印象的でしたね。 例えば皆さんがよく言う、お湯の温度は何度であるとか、何分ぐらいで何cc抽出するとかですね。 実際に学んでいく中で実感したのですが、 珈琲というのは、その日その日で日々異なります。数値化できないんです。 豆の鮮度もその日によって変わるし、お湯の微妙な温度や湿気だったり、いろんな要素がある。 「珈琲を淹れる、今ここで起こっている状況を良く見なさい。」と、よく言われるのですが、そこから起こってくる、泡の表情や香りとか、そういうものを読み取る力を養って、常にその時一番いい状態で淹れられるよう日々学んでいます。

Q. 単純に数字的なもの、時間的なものではない、感覚的なものを学ぶのは相当難しいのでは?

そうですね。私の場合、もともと珈琲好きだったせいか、 ちょっとつまみ食いで知ったことを独学でやってみたりとか、そうした余計な知識が邪魔して変なクセがいっぱい付いていました。 日頃淹れる上で、ゼロから教わっていれば素直にスッと入れたことが、変なこだわりというか、手癖が邪魔をして、お客さまが多くて忙しいときほど悪いクセがでてしまうんですね。 最初のうちはその手癖がなかなか取れなくて、相当悩みました。

現在総勢9人のスタッフがいますが、珈琲を淹れてお客さまにお出しでできるのはその内3人だけです。トレーニング中のスタッフもいますが、 気持ちに余裕があり、誰も見ていないところではうまく淹れることはできても、 お客さまの前で緊張したりオーダーがたくさん入って急いでしまうと、 自分のルーティーンが守れなくなりいつもできることが出来なくなる。 その少しの違いに珈琲というのは敏感です。その繊細なわずかな違いに私たちは常に神経を注いでいます。

機械でなく人が淹れる意味は、120点を目指せるところ。

Q. こうして毎日珈琲の淹れ方を学んでいくと、やはり昔の自分が淹れた珈琲と違ってきますか?

明らかに変わってきていると思います。 最初の頃はいろんな味が出て、その味の中には出したくない味、えぐみとか、嫌なものまで抽出されてしまっていたのが、今はちょっとづつ取れてきていると感じています。 現在も3ヶ月ごとにワニさんに指導してもらっているのですが、テイスティングしてもらうと 「うーん、ちょっと、、」と言われることが、まだまだあります。 不思議なもので,、他人が淹れた珈琲だと細かな味の違いを指摘できるのですが、 自分が淹れた珈琲だと、毎日飲んでいるせいか自分自身その違いに気づきにくくなってしまうんです。

この仕事をして6年目ですが、いい状態に安定してもっていくのは本当に難しいですね。 まだ100点と断言できるほどの自負はありませんが、こういうところが失敗だったなと、自分で気づけるようになってきたのは成長だと感じます。面白いもので、100点と思える珈琲を淹れられた時でさえ、その満足感はほんのひとときだけで、次の瞬間には「ここに気づけたら、もっと美味しい珈琲を淹れられたのではないか?」と思ってしまうものなんですよね。

例えば、美味しいと感じる珈琲を数値化して、これを完全に同じことができる機械に任せたら 毎回100点の味は出せるかもしれません。 でも私たちがハンドドリップにこだわる理由というのは、人間が淹れるので当然失敗もありますが、その反面、機械にはできない120点の味を目指すことができることなのではないでしょうか? でもそれこそが人が珈琲を淹れることの醍醐味であって、同じことなのに、こうして毎日緊張感をもって続けていけるのも、毎回、「次はもっと美味しい珈琲を淹れるぞ!」というモチベーションがあるからでしょうね。

七条交差点をわたる頃に、「あ、また飲みたいな」と思ってもらえる味

Q. Kaikado Caféが目指している珈琲とはどんなものなのでしょうか?

カフェや珈琲店っていっぱいありますが、多くは「シングルオリジン」という単一の品種の、その豆のもっている味の特徴をきちんと伝えようとしているお店ではないでしょうか。 対して、私たちはブレンド珈琲1種類だけでやっているのが特徴です。 その味のベースになっているのは、先ほど申し上げた、珈琲店をやりたいと考えていた先代の一番好きな味です。今流行っている味とかではなく、まず自分たちがこれだと思う味をKaikado Caféでは出したいということです。 その味を決めるのに4ヶ月ぐらいかかりました。ブレンドを作る上でいろんな味を作って、 会長にテイスティングしてもらって、この味が一番好きと言ってもらえるものを絞り込んでいきました。それが今出している唯一のブレンド珈琲です。

それが今年6年目になり、これからの10年目に向けて味をさらにブラッシュアップしていこう、新しいけれど開化堂らしいものを作ろうということで、 新しいブレンドをワニさんに考えて頂き、昨年の2月くらいから皆でテイスティングして、昨年の4月から新しいブレンドとして切り替わりました。

Q. 会長の珈琲の好みとはどのような感じなんですか?

私たち淹れ手として意識しているのは、 過度にパンチがあったり、苦味があったりといった特徴のある味ではなく、 飲み口はスッとしていて、香りと味わいの途中で感じる深みというもの何となく感じながらも、 基本無意識にスイスイ飲めてしまう珈琲です。

表現としては、珈琲を飲み終わって、お店を出て七条の交差点をわたる頃に、 「あ、また飲みたいな」と思ってもらえるような味です。

私たちの珈琲は、浅煎りでも深煎りでもない中煎りなのですが、 珈琲が苦手な人でも、最初ちょっと飲んでいただくと、それまでの見た目の印象とか、飲んだ印象が変わって「ブラックでも飲めました」と言ってくださる方も多くいらっしゃいます。 若い人でも、珈琲が好きという方がいる反面、珈琲が苦手という方もいますが、 当店の若い学生さんのお客さまで「珈琲飲めなかったけど、ここの珈琲で好きになりました。」 と言っていただいた方がいて、「私たちは目指していることはこれなんだな」と、うれしかったですね。

Q. 完成したブレンドを変えるというのは、勇気がいることではないですか?

はい、ブレンドと言ってもただ豆を機械に入れて焙煎するということではなく、そこには調理のプロセスがあります。その中でもブレンドは特に味を決める重要なポイントです。 まず、大きく3種類の味の傾向作り、そこから絞り込んでいって会長の好きな味にグループに振り分けて、そこかさらに何パターンかブレンドを作っていきます。 以前のものは、土というか土地の味がする味わいがあったところを、今のものは、もう少しウッディーな香りを軸としたような味わいという風に印象を変えています。 しかし今回の新しいブレンドは、確かに豆もブレンドの中身も完全に変わっているのですが、 会長の好みという意味ではベースはそんなに変わっていません。

前のと飲み比べると確かに違うなと私も感じますが、 1年前に来ていただいたお客さまだと、もしかすると気づかないかもしれませんね。 ちょっと変わりました?とご指摘いただく場合もありますが、 まったく違った方向性の味になったわけではなく、あくまで開化堂の味であることは変わりありません。 私たちの珈琲は、何々産のどの豆を使って、というようなことではなく、 Kaikado Caféの味わいというものをずっと守っていきたいと考えています。

開化堂カフェの珈琲の淹れ方

すっきりと味わい深い味を抽出するため、1杯30gでたっぷりと豆を使います。

最初にドリッパーの上にちょっとお湯を置く感じです。10円玉や100円玉ぐらいのイメージで。

珈琲のそのときの状態、ガスが含まれている状態だと、ぷくっと半円状に膨らんだり、ちょっと時間が経っている豆だと、スッとしなってしまったり、いろんな状況が起こります。その状況を見て、「これは焙煎して浅いものかな、ちょっと時間が経ったものかな」というように判断して、次にどういう風に淹れていこうかというのを考えます。

その後、お湯が92度から95度前後になっているのですが、珈琲の中にいきなりお湯をドボドボ注ぐと、熱いお湯と常温の豆とがうまく馴染みません。またお湯を大量に注ぐと、油分を含んでいるので、染み込む前にお湯が下に抜けていってしまいます。

ちょっとずつお湯を2投目、3投目と置いていきます。あまりお湯を置きすぎると水浸しになって染み込まないので、馴染んでいるのを確認しながらちょっとずつお湯を注いでいきます。

その後反応が変わってきて、珈琲が上にパッと上がってくる瞬間があります。それがもうちょっとお湯を受け入れられるサインになっていて、、それからちょっとずつお湯を増やしていきます。

真ん中にお湯を入れると返しでふわっと泡が出てくるので、そうなったら泡を動かしてあげます。それを繰り返してドリッパーの中で味のベースをしっかり作り上げていきます。

その後、下から少しずつぽとぽとと落ちてくると同時にこんもりとし始めてくるので、そこからは後はお湯の量をどんどん増やしていって、中にある味のエキスを下に押し出してあげます。
そのときにポットを回してしまうと、自分が入れているお湯で上を踏み固めてしまうので、きちんと真ん中にお湯を注いで、上下に動かすか感じでお湯を注ぎ、最後にクッと上に戻すような動作を繰り返します。これを繰り返し、必要な量を取りきったら、終わりです。必要量とれたら、お湯が残っていてもそこで止めます。

珈琲を飲むときの口当たりにこだわった朝日焼のコーヒーカップ

明治の頃と思われる古葉書。その当時からの開化堂と朝日焼との交流の証。

Q. 朝日焼のカッを開化堂カフェで使っていただいています。

はい、現在はコーヒーカップ、ティーカップ、そしてカフェオレに使うカップ&ソーサーの3種類を使っています。 Kaikado Caféと、「カフェ」という名が付いていますが、カフェの役割って、空間だったり雰囲気だったり、いろんな要素があると思うのですが、 私たちKaikado Caféにとって「主役」はお客さまです。その意味で珈琲は「脇役」なのですが、良き脇役があってこそ主役が活きると思っています。さらにその物語(お客さまの時間)をより芳醇で印象深いものとする「小道具」が、建築だったり、インテリア、そしてこのカップではないでしょうか。

世の中には逆にカップが主役になっている場合もあると思います。 私もカップが好きでついついコレクションしてしまうのですが、結局いつも使うものって、飲み口の好みとか、無意識に気に入ったものになってしまうんですよね。 そういう意味で、この朝日焼のカップはお店で出すカップとしては、特に目立つわけでもなくシンプルで派手さはないのですが珈琲を飲む人にすごく寄り添っているというか、 珈琲を愉しむのにとてもしっくりくるデザインですね。

特に飲み口の良さと、持った時の持ちやすさが気に入っています。 シンプルな持ち手なのですが、しっかりとした安心感がある。 指に熱さが伝わらないようなちょっとした工夫がされているのもうれしいですね。 このカップは上から見ると完全な丸ではなく楕円になっています。 これが口当たりを重視した結果なのですが、職人さんは綺麗な丸を作ることができるのに、わざわざこの微妙な楕円を作っていただきました。

このデザインコンセプトは日本人の口に合わせてワニさんが考案され、その考えをベースに松林さんがワニさんの自宅に伺い形が生まれました。よくカップから口を離した時に珈琲が垂れてしまうことがあるのですが、このカップではそれが少ないですね。また口当たりに関してはこの薄さも大事な要素です。薄すぎず、逆にぼてっとしすぎず、とても良い口当たりです。 色に関しては、中は白磁で外は青磁にしてもらっています。 珈琲が綺麗に映りますし、先ほど当店の珈琲の味をお話ししましたが、それと同じような感じで、「このカップ、飲み口がよくてデザインもシンプルで良いカップだったね。」と、後になって思い出してもらえるようなカップになっていると思います。 お茶筒と同じですよね。使っていて気持ちいい道具。 使っているときには気づかないけど、後になって思い出すように気づくもの。 「あの珈琲美味しかったな、また飲みに行きたいな」と思う感覚の中には、口当たりやカップを手に持った時の感触、暖かさ、心を静める青磁の風合い。味覚だけでなく、そういった五感全体で感じるものだと思うからです。

開化堂の茶筒も、日々使う道具とは、壊れても直しながら使い続けられるようにという思いで手作りにこだわっていると伺いました。同じくKaikado Caféで使われている朝日焼のカップには一部金継ぎされているものもありますよね。

確かに、お店として使う道具としては、壊れやすいものは購入するのに躊躇する部分はありました。個人的にも器、焼き物は昔からずっと好きで、親にねだって幼稚園の時に初めて買ってもらったものが一輪挿しなんですね(笑)小さい時から焼き物を買ってもらっていましたが、使い方が荒かったのか、どうしても欠けたり壊れてしまうんですよね。親が持っていたコーヒカップも私のせいで徐々に減っていきました(笑)

でも開化堂に入って、壊れても直して使うこと。また金継ぎのように、直して使い続けるだけでなくそこに新たな器の魅力が生まれることを知りました。より愛着のある人と道具との関係ですね。 お店で毎日使う器ですから、使っていく内にどうしても欠けたりします。だからといって捨てて新しいものを買う、または壊れないものに変えるということはしたくありません。 開化堂らしさ、とういうことを考えると、珈琲の味だけでななく、珈琲を飲むカップを含めて愛着を持ってもらうということではないでししょうか。

お客さまから「このカップだけここの箇所が金でかわいですね」と言われたこともあります。 その時は、欠けても直して使えること、金継ぎのことをお話させていただきます。 開化堂の精神も含めて、道具を直しながら使い続けることを少しでもお伝えできればと思っています。

また器によって、金だったり、銅や銀だったりと継ぐ素材を変えたりします。そういう欠けたものをどのように変えるのか、それを考えたりするのも楽しみの一つになっていますね。 壊れたからといって、落胆するのではなく、より道具を愛するための楽しみに変えていく。 これはすごく有意義なことだと思いますね。

コーヒーカップ 青磁

価格 14,300円(税込)

Kaikado Café(開化堂) オリジナルカップは、中川ワニさんのデザイン。持ちやすさや口当たりの良さなど、珈琲を美味しく飲むために何度も試作を繰り返し、今の形になりました。珈琲を美味しく飲むためのデザインの詰まったカップアンドソーサーです。

カップ
サイズ  Φ75×h68 mm (ハンドルを除く)
容量   160 ml
素材   磁器土
釉薬   青磁
焼成   ガス窯

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コーヒーカップ 青磁ぼかし

価格 28,600円(税込)

Kaikado Café(開化堂) オリジナルカップは、中川ワニさんのデザイン。持ちやすさや口当たりの良さなど、珈琲を美味しく飲むために何度も試作を繰り返し、今の形になりました。珈琲を美味しく飲むためのデザインの詰まったカップアンドソーサーです。

カップ
サイズ  Φ75×h68 mm (ハンドルを除く)
容量   160 ml
素材   磁器土
釉薬   青磁、辰砂釉
焼成   ガス窯

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コーヒーカップ 月白釉

価格 14,300円(税込)

Kaikado Café(開化堂) オリジナルカップは、中川ワニさんのデザイン。持ちやすさや口当たりの良さなど、珈琲を美味しく飲むために何度も試作を繰り返し、今の形になりました。珈琲を美味しく飲むためのデザインの詰まったカップアンドソーサーです。

カップ
サイズ  Φ75×h68 mm (ハンドルを除く)
容量   160 ml
素材   磁器土
釉薬   月白釉
焼成   ガス窯

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