自然の火で作る食と器。
LURRA°といっしょに考えた、
ありそうでなかったPorcelain cup(磁器のカップ)。

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訪ねた場所
LURRA°(京都市東山区)

日本の暦ではなく、
自分たちが暮らしてリアルに感じる日本。

ゼネラルマネージャー 宮下拓己さん

「LURRA°」は、ニュージーランドのレストラン「Clooney」で出会った、宮下拓己さん、ジェイカブ・キアーさん、堺部雄介さんの3人が、帰国後2019 年に京都東山の京町屋をリノベーションして始めた、今最も野心的でイノベーティブなレストランです。マネージャーの宮下さんは「LURRA°」を、二十四節気や七十二候などいわゆる日本の暦に囚われず、(自分たちが体験した)情景・季節感を表現する場所にしたい言います。“ 日本という場所で発信できるもの”にこだわり、それは食だけでなく、伝統的な工芸や日本の“暮らし” の中のものづくりすべてを紐解いていくこと。それが宮下さんが「LURRA°」で考えていたことでした。

「日本人でも意外と漆とか日本の工芸を知らなかったり、違いがわからなかったりします。でも良いものって実際に手に取って使ってみると分かる。本物とそうじゃないものの違いを体感してもらうにはレストランは最適な場所なんです。」

京都に居を構えた宮下さんが最初に始めたのが、直接自分の足で日本のものづくりの“今”を見て回ること。京町屋の伝統的な風情を残しながら、店内の照明は奈良にある「NEW LIGHT POTTERY」など、積極的に今の“ 感覚”を取り入れた店舗は、宮下さん曰く「日本の季節と文化のショーケース」と呼ぶに相応しいモダンさが漂います。その「日本」を探す旅で出会ったものの一つが「朝日焼」でした。登り窯を見学し、その伝統的なものづくりに大きく感銘を受けた宮下さんは、2 年の親交を経て朝日焼にある依頼をしました。「LURRA°」のためのPorcelain cupを朝日焼の登り窯で作りたいというのです。

朝日焼とLURRA°
原始的な火が作り出すもの。

上:LURRA°ではガスや電気釜は一切使わず、薪窯2台を使った自然の火ですべての調理を行う。

下:今回の朝日焼のPorcelain cupも薪火のみ(登り窯)で焼成。自然な結びつきだった。

宮下さんが朝日焼の登り窯に注目したのは同じ京都という以上に大きな理由がありました。「LURRA°」ではガスを全く使わずに薪だけで料理を作っています。自然の火が作り出す創造性に魅了された宮下さんは、登り窯に「LURRA°」のものづくりの原点を見出したのです。

“ 原始的な火のゆらめきと香り” 。宮下さんは薪の魅力をそう表現します。

「薪窯は2つあり、1つは600度まで上がり普通では作り出せない高温になります。鉄鍋を中に入れそこに野菜などを入れると、下の面は鉄鍋の熱さ、上の面は薪の熱さで水分が逃げる前に一気に火が入るので野菜はすごくジューシーになります。それに薪がもっている香ばしい香り。薪も1つの調味料なんです。」

“ 朝日焼の登り窯なら、LURRA°の世界観をそのまま表現することができる。” こうして「LURRA°」と「朝日焼」のものづくりがスタートしました。ゴールが見えてない状態で始まったこのものづくりも、プロトタイプを作るごとに新たな発見がありました。日本の器は基本和食に合わせて作られてきました。しかし「LURRA°」のような異なる感性と掛け合わせることで、伝統的な器にまた新たな役割や価値を見出せるかもしれません。これこそ日本文化のもう一つの側面、柔軟性なのだと再確認することになったのです。

いい意味で不完全。プリミティブなゆらめきを愉しむ。

食後にマティーニとドーナツと添えて。食中のお酒やお茶のグラスに丁度良いサイズ感。

今回のPorcelain cupの制作については、ミクソロジストの堺部さんから、いわゆるマティーニグラスと言われる逆三角形のグラスをイメージしたものにして欲しいと希望がありました。
最初は一般的なカクテルサイズである90ccが入る器を作ってみましたが、出来上がったサンプルを堺部さんが見て触ってみるとちょっと大きく感じるとの指摘。そこで本来よりわずかに小さいサイズに変更してみたところ、こちらの方がより自然な収まり感がでました。また飲み口をできるだけ薄くして口当たりの感触にこだわり、傾斜はあまり傾け過ぎずに液体が滑らかに口に入る角度を意識するなど、堺部さんと細部を詰めていきました。

宮下さんとは、登り窯が作り出す“個体差”について協議を重ねました。「温度差があって生まれるこの不完全さが「LURRA°」らしい」と、個体差の幅を通常より大きくとることをあえて選択。これは作る側と依頼する側が完全にビジョンを共有し信頼関係がないとそうそうできないこと。

貫入※1 の表情(炎の当たり方によって大きく変わる)や灰かぶり※2(本来白磁というものは鮮やかな白さを追求した技術であるが、今回のカップには登り窯の“灰かぶり”を採用している。カップの内側には灰の残した景色として白磁の中に黄色いムラが残る。)など、出来上がったPorcelain cupは1点1点すべて異なる登り窯※3ならではの味わい深いものになりました。

「同じ器でも手に取るとどこか少し違う。そういう個体差を感じることも「LURRA°」で食事をする上で同時に愉しんでもらいたいですね。」と、宮下さんは出来上がったPorcelain cupを満足そうに手に取って見比べていました。

※1 貫入:釉薬と素地の土との収縮率の違いから生じるひび模様。割れや傷で生じるひびとは違う。

※2 灰かぶり:登り窯の焼成で使用する松の薪(まき)が窯内で燃えて灰となり作品に被ります。松の薪は鉄分を多く含むのでその灰は黄色く変色して釉薬に残ります。

※3 朝日焼では現在は登り窯で焼成する磁器のうつわはありません。それは磁器の繊細な釉薬にはガス窯が向いているという考えです。50年ほど前の祖父の若い頃までは朝日焼でも磁器を登り窯で焼成しておりました。50 年ぶりぐらい久々に磁器ものを登り窯に入れてみました。

Porcelain cupにマティーニを。

上:ペアリングで使用されるリキュールやドリンク素材が2階の発酵室&セラーに大切に保存されている。

下:広がった形が特徴の磁器のグラス。内側が白磁なのでリキュールの色味を見やすい。広がった形で香りがこもらず、程良い香りを楽しめる。

ミクソロジストとは、混ぜるを意味するmixと、科学・学問を意味する〜ologyを組み合わせた造語。既存のカクテルの作り方を踏襲して新しいものを作り出そうとする新たなバーテンダーを指す呼び名です。ミクソロジストの堺部さんはこれまでレストランでバーテンダーをとしてシェフと一緒に働いてきた経験が長いこともあり、堺部さんの作るカクテルは普通使わない料理人の器具やテクニックが入っているのが一般的なバーテンダーと違うところ。特に「LURRA°」の特徴の1つである、保存食や発酵という技術を使ったカクテルは他ではあまり見ないのではないでしょうか。

今回、堺部さんがPorcelain cupに合うカクテルとしてマティーニを作ってくれました。ベーシックなカクテルなのですが、今回制作した磁器のグラスとお酒の相性を知っていただくには丁度良いとのこと。マティーニは人によってその配合は自由で、それが楽しみ方のひとつなのですが、今回の場合はジン3に対してベルモット1の割合です。分量としては90mmぐらいで作るのですが、60mmぐらいが一番綺麗。ちょっと余白が残るぐらいの分量です。ショートカクテルと呼ぶ、氷を入れないでさっと飲んでいただけるカクテルの器としてはかなり使い勝手のよいグラスになりました。

「磁器のグラスは保温性がいいですね。こうして手で持っていても手の温度が移りづらいし、普通のカクテルグラスと違って形がユニークなので、お酒以外にも当然お茶にも使える。後で気づいたのはワインとすごく相性がいいですね。ちょっとクセの強いワインだったりした場合、いわゆる普通のチューリップの形をしたワイングラスだとやっぱり匂いがこもるので、その点このグラスはクセのあるワインでも飲みやすい。またお店ではノンアルコールのドリンクにも使っています。今の季節だと橘ですね。香りが比較的強いですが、このグラスだと香りが全面に出過ぎず、抜けがよく嫌味がないさっぱりした飲み口になります。」

写真集ではなく、絵本のような場所でありたい。

左から、ゼネラルマネージャーの宮下拓己さん、シェフのジェイカブ・キアーさん、ミクソロジストの堺部雄介さん。ニュージーランドのレストラン「Clooney」で出会った3人が京都から新しい食を発信する。

「今世界中の高級レストランが、例えるなら写真集のようなレストランを目指している感じ。」と、宮下さんは語る。「空間やお皿の上だけを切り取った見栄え良くおしゃれなレストランは沢山あります。それよりも「LURRA°」は絵本のようなレストランでありたい。写真集だとその本と見る人の関係で終わってしまうけど、絵本って誰かが誰かに読み聞かせてあげる時間というか体験ですよね。本があって、読む人がいて、聞く人がいて、そんな人と人が交わる空間。食事というか食を通した体験を提供したいんです。」

カウンター席の手間のテーブルの空間は「IRORI」と呼んでおり、食事の最後に真ん中にろうそくを立てて、昔の日本にあった「火を囲む」を体験する場になっています。食事をするときには、囲炉裏があって、周りに人が集まって、会話をしながら、鍋を突き合う、そんな宴の光景。食後のデザートの時間は、カウンターにいたお客様を「IRORI」に案内して昔の日本の食卓のように火を囲んで団欒する。一期一会の時間を共有する場所。

旅行のついでではなくて、ここに来るために旅をする場所にしたい。
「LURRA°」が目指すレストランは、そんな日本に本来あった原風景を呼び覚ます。食を通じて人と人が語り合う。このレストランは新しくて古い。私たちが失いつつあった“食卓の意味”を絵本のように読み聞かせてくれる場所なのです。

価格 8,800円(税込)

Porcelain cup

京都東山のレストラン「LURRA°」と制作したPorcelain cup。薪の火のみで料理を作る「LURRA°」のために登り窯で焼成した磁器のカップです。登り窯での焼成のため貫入(かんにゅう)の模様の強いもの、まったく無いものや灰が被って黄色く変色した箇所があるものなど個体差が大きいです。

サイズ  Φ92×84 mm
容量  80 ml
素材  磁器土
釉薬  青磁
焼成  登り窯「玄窯」
箱   紙箱

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